特集アーティスト

Interview with

石上真由子

石上真由子
©Masatoshi Yamashiro

―内省と対話を音にする

ヴァイオリニスト・石上真由子語る

シューマンとブラームス
ヴァイオリン・ソナタの深層

植村遼平◎本誌記者

 ヴァイオリニストの石上真由子が3月6日のリサイタル(浜離宮朝日ホール)で、シューマンとブラームス、それぞれのヴァイオリン・ソナタ第2番を演奏する。二人の作曲家を「対極」と捉える石上は、異なる方向性をもつ二つの音楽にどのような思考で向き合っているのだろうか。


―石上さんはデュオの江崎萌子さんと、2021年にシューマン、ブラームスのソナタ全曲演奏をされています。

 実はブラームスは、作品と向き合うことにある種の畏怖の念があって長年避け続けてきた作曲家でした。自分の精神がまだ作品の求めるものに追いついていないのではないかと。江崎萌子さんという、ベストパートナーだと思えるピアニストと巡り会い、シューマンとともに全曲演奏に挑戦したのが2021年でした。

出発点は西村朗の音楽
話し言葉と書き言葉

石上真由子
デュオM&Mとして活動している石上真由子(ヴァイオリン)
と江崎萌子(ピアノ)(2023年9月)

―今回は二人の第2番ソナタを演奏されます。選曲の意図は?

 今回は、シューマンとブラームスを対極の作曲家としてプログラムに取り入れています。まずプログラムを考える上で主軸にしたのが西村朗先生の作品でした。昨年の夏、西村さんの弦楽四重奏曲4曲を人生で初めて弾く機会があり、その音楽にどっぷり浸かった時間を過ごしました。西村先生の作品はインテンシブで、弾くのも大変。これまでの人生でも一番と言えるくらい苦しみましたが、その音楽にすっかり魅了されてしまって。西村先生の作品は人間の「情念」を深く感じるものが多く、これをキーワードにした公演を考えたときに、真っ先に浮かんだのがシューマンのヴァイオリン・ソナタ第2番でした。
 そして、私たちのデュオの今のコンセプトの一つが、音の「対話」です。ただ二人がシンクロするだけでなく、どういう風なアイデアで演奏したいのかを、言葉で念入りにすり合わせることを心がけています。二人の音の対話であり、作曲家との対話であり、お客さんとの対話でもある。その意味で、ブラームスの第2番がこのキーワードと親和性が高い作品だと思い選曲しました。

―二人の作曲家が対極にあることについて、詳しくお聞かせください。

 作品同士で考えると、ブラームスの第2番は第1楽章冒頭から分かりやすく対話的ですよね。ヴァイオリンとピアノが会話するような形。それに対して、シューマンの第2番はモノローグ的で、自分の奥に潜り込んでいく。つまり「主語は自分」の音楽です。作曲家全体で考えても、シューマンの音楽は「話し言葉」的で、だからこそまとまりがありません。「私はこう思うのだけど~」「そういえばこんな話を思い出して~」というように、ひたすら何かを喋っている。次から次へと派生していく感じです。逆にブラームスの音楽はとても推敲されていて、丁寧にそぎ落としながら考えた文章のよう。極めて文語的です。実際にブラームスはとても時間をかけて作曲した人だったし、シューマンは早書きだった。作曲の仕方にも表れていると思います。

異質なものを異質なままに

―シューマンのソナタ第1、2番は、どちらも短調で晩年の作品です。

 表現欲求としては近いものがありますが、第1番は第2番と比べると頭の中が多少整理されています。第2番は好循環なのか悪循環なのか、同じところでぐるぐるしている。ある種、躁鬱のようでもあります。第4楽章の最後の煌びやかさは、まさに躁の状態を思わせます。緩徐楽章は躁的な陽気さというよりは、鬱のなかに表れるかつて幸せだった時の記憶で、もの悲しさもあります。

―こうした音楽の性質を、演奏でいかに表現するのかが難しいところです。

 江崎さんと私は音楽的な瞬発力が似ていて、お互いの意図をすぐに察知し、共感できる、とても近い感性を持っています。これは長所でもあり、同時に欠点にもなりうる。寄り添い、音色を溶け合わせる方向は得意だけれど、異質なものを異質なものとして受け入れて、それらを共存させるということに、これまであまり意識を向けられてきませんでした。特にシューマンでは、こうした拮抗する部分も大切に演奏できればと。

♢この記事は抜粋です。全文は、MOSTLY CLASSIC4月号を手に取ってお読みください。


Mayuko Ishigami

日本音楽コンクールをはじめ、国内外で優勝・受賞多数。題名のない音楽会、NHKクラシック音楽館、NHK-FM「ベストオブクラシック」等に出演。国内外で多数のオーケストラと共演。長岡京室内アンサンブル、アンサンブル九条山メンバー。ポラリス国際音楽祭アドバイザー。室内楽コンサートシリーズEnsemble Amoibe主宰。2025年8月、キングレコードよりCD「他人の顔」(ピアノ:江崎萌子)をリリース。

公演情報

石上真由子 × 江崎萌子
デュオ・リサイタル ~情念~

3月6日(金)19:00 浜離宮朝日ホール

シマノフスキ:神話
西村朗:ヴァイオリン独奏のための《モノローグ》、微睡Ⅰ
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第2番
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第2番
[問い合わせ] 朝日ホール・チケットセンター 03-3267-9990