岡本稔◎音楽評論家

アンドレア・バッティストーニ(指揮)、東京フィルハーモニー交響楽団
(コロムビア)COCQ-85655
3500円
描写音楽を超えた作品の全体像を鮮やかに描き出す
バッティストーニとともに、オーケストラが着実に力量を積み重ねていることを実感させる一枚。R.シュトラウスが持てる作曲技法を駆使して描き出した壮大な作品の全体像を鮮やかに描き出す。作曲者による情景の表題を追うだけでなく、「交響曲」という名称を与えた作曲者の意図も十分に伝え、単なる描写音楽に終わらせない。弦楽器ばかりでなく、木管、金管の音色の豊富さも特筆に値する。全曲の見通しも良く、ごく自然にクライマックスへと導く。

小山実稚恵(ピアノ)、ドミトリー・ユロフスキ(指揮)、
東京フィルハーモニー交響楽団 &フェドセーエフ・フレンズ
(ソニー)SICC-19091
3300円
※SACD Hybrid
小山実稚恵デビュー40年、年輪重ねた味わいのライヴ
ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は、小山実稚恵がチャイコフスキー・コンクールの本選でも弾いた勝負曲。以来、事あるごとに取り上げてきた。当録音は2025年のデビュー40周年演奏会におけるライヴ。以前の小山はどちらかといえば卓越したテクニックと強靭な打鍵で聴き手を圧倒する面があった。しかし、この演奏では、そうした技巧面ばかりでなく、積み重ねてきた年輪を感じさせるより深い味わいも兼ね備えるようになっている。
伊熊よし子◎音楽評論家

プーランク:ヴァイオリン・ソナタ/ストラヴィンスキー(ドゥシュキン編):ヴァイオリンとピアノのためのディヴェルティメント(バレエ音楽《妖精の口づけ》より)/フランク:ヴァイオリン・ソナタ
前田妃奈(ヴァイオリン)、久末航(ピアノ)
(Exton)OVCL-00921
3520円
個性異なるデュオの調べが、ひとつの声に
2022年ヴィエニャフスキ・コンクール優勝の前田妃奈と2025年エリザベート・コンクール第2位の久末航よる演奏はライヴで聴くことができたが、前田の推進力とダイナミックさが横溢したヴァイオリンと、繊細で詩的で大人の音楽を奏でる久末の丁々発止のデュオが非常に刺激的。こんなにも個性が異なる音楽性を持つふたりの演奏が「ひとつの声」になる瞬間が興味深く、プーランク、ストラヴィンスキー、フランクというまったく異なった内容を持つ選曲にも心が高揚する思いだった。いま聴き直してみると、あの熱量が伝わり、感慨が新たになる。
石戸谷結子◎音楽評論家

ヤン・ペトリカ(エヴァンゲリスト)、ミリアム・フォイエルジンガー(ソプラノ)、ラファエレ・ペ(カウンターテナー)、フェラン・ミティアン(テノール)、マティアス・ヴィンクラー(バス)、クリストフ・フィラー(バリトン)
ジョルディ・サヴァール(指揮)、ラ・カペラ・レイアル・デ・カタルーニャ、ル・コンセール・デ・ナシオン
(Alia Vox)AVSA9967
オープン価格
※輸入盤、2SACD Hybrid
柔らかな古楽演奏が、イエスの悲劇をより鮮やかに
古楽界のレジェンド、サヴァールの指揮。録音は彼の出身地カタルーニャの教会で行われた。古楽器の柔らかな響き、あたたか味のある穏やかな演奏がイエスの悲劇をいっそう鮮やかに描き出す。歌手はいずれも素晴らしいが、とくに福音史家のヤン・ペトリカが美声で品のある歌唱。ル・コンセール・デ・ナシオンの深く人間味溢れる演奏、哀しみを湛えた精緻な合唱が、古い教会に静謐に響き渡る。受難をよりドラマチックに表現する《ヨハネ受難曲》は、イエスが十字架にかけられてからの場面が胸を打つ。第2部のバスのアリオーソとテノールのアリアが感動的だ。
鈴木淳史◎音楽評論家

ナディア・ブーランジェ:前奏曲/ピアソラ:プレパレンセ/ヒナステラ:ビダーラ/リリ・ブーランジェ:九月の太陽/ストラヴィンスキー:タンゴ ほか
ラシェロン(古楽器使用)、ジャン=バティスト・アンリ(バンドネオン)、フランソワ・ジュベール=カイエ(ディスカント・ガンバ、指揮)、ジュリー・デサン(テノール・ガンバ)、オード=マリー・ピロ、サラ・ファン・アウデンホーフェ(バス・ガンバ)
(Fuga Libera)FUG845
オープン価格
ヴィオールとバンドネオンの相性が抜群
前人未踏、マレのヴィオール曲集の全曲録音を果たしたジュベール=カイエ率いるラシェロンの新譜は、バンドネオン奏者とのコラボ。エッジを効かせたり、曲線を描く奏法など、ヴィオールとバンドネオンの相性は抜群だ。そのせいもあって、ピアソラ作品は鮮やかではあるけれど、さほど新味がない。ただ、そのタンゴの巨匠の師であったナディア・ブーランジェのオルガン曲、その妹リリの歌曲、そしてヒナステラのピアノ曲などでは、思いがけないところから抒情や哀愁がふんだんに香り立つ。