岡本稔◎音楽評論家

カーチュン・ウォン(指揮)、ハレ管弦楽団、ハレ合唱団、
ハレ・ユース合唱団、マサバネ・セシリア・ラングワナシャ(ソプラノ)、サラ・コノリー(メゾ・ソプラノ)
(東京エムプラス) CDHLD7568JP オープン価格
※2CD、Halle原盤、ONY DADCプレス盤(日本向け限定生産)、日本語解説&日本語曲目表記オビ付き
マーラーの表現を完全に体得したウォン
バルビローリの伝統継ぐハレ管に清新な感覚投影
日本フィルのマーラー・シリーズでも極めて高い評価を得ているウォンが、もう一つの手兵、ハレ管弦楽団とともに演奏した際のライヴ。ウォンはマーラーの表現イディオムを体得しているのだろう、次々と変化する楽想をすべて自らの音楽として表現している。ハレ管弦楽団はバルビローリらによって築かれた確固としたマーラー演奏の伝統を持つ団体。ウォンはそれを受け継ぎながら、そこに21世紀にふさわしい清新な感覚を投影している。

山下一史(指揮)、愛知室内オーケストラ
(M Classics)MYCL00065
4950円
※2SACD Hybrid
小ぶりの編成で作品本来のバランス実現
シューマンならではのロマン性表出
愛知室内オーケストラは2002年の設立。2015年から常任指揮者の任にあった新田ユリのもと独自の存在感を高め、2022年に初代の音楽監督として山下一史が就任した。このライヴ収録による全集には、彼らの個性が如実に刻印されている。シューマンの時代の小ぶりの編成によって、作品本来の楽器バランスを実現し、この作曲家ならではのロマン性を表出させる。山下の音楽づくりはどちらかといえば、楷書的な表現によるきわめて堅実なものである。
伊熊よし子◎音楽評論家

C.P.E.バッハ:フルートと通奏低音のためのソナタト長調 H.564《ハンブルガー・ソナタ》、W.F.バッハ:フルートと通奏低音のためのソナタ ホ短調 FK.52、J.S.バッハ:フルートと通奏低音のためのソナタ イ長調 BWV.1032 ほか
柴田俊幸(フラウト・トラベルソ)、
アンソニー・ロマニウク(チェンバロ&フォルテピアノ)
(ナクソス)NYCX10540 3300円
※輸入盤国内仕様、日本語解説付き
臨場感あふれる古楽器アンサンブル
長年にわたりベルギーのアンサンブルで共演を続けてきた柴田俊幸とアンソニー・ロマニウクが、バッハの息子たちの作品で雄弁な音の対話を繰り広げている。ロマニウクは、多種多様な鍵盤楽器をごく自然に弾きこなしてしまう才能の持ち主。ここでもチェンバロとフォルテピアノを自在に操り、柴田とのデュオも歓びの表情をもって演奏。これは2024年5月に高崎芸術劇場で収録された。ライヴのような臨場感あふれるアンサンブルの誕生だ。
石戸谷結子◎音楽評論家

ミヘイル・シェシャベリゼ(テノール)、フランコ・ヴァッサッロ(バリトン)、ロベルト・フロンターリ(バリトン)、ヴァレンティーナ・ボーイ(ソプラノ)、デニス・ウズン(メゾ・ソプラノ)、キム・ドンホ(バス) ほか
フランチェスコ・チッルッフォ(指揮)、
カリアリ歌劇場管弦楽団&合唱団
(ナクソス)8660582 オープン価格
※2CD、輸入盤
皇帝ネロの内面を表現したドラマチックな音楽
2024年2月、カリアリ歌劇場での公演は映像が発売されており、そのCD盤。ボーイトは《メフィストーフェレ》の作曲家であり、ヴェルディの《オテロ》、《ファルスタッフ》の台本も担当。この《ネローネ》の台本も執筆し、5幕版で作曲を始めたが完成できずに亡くなった。1924年に補筆した4幕版がスカラ座で初演され、その初演100年を記念した公演。音楽はワーグナーのような壮大なスケールを持ち、ネロの内面や残虐性を表現したドラマチックな内容。歌手陣は主役を始め、他のキャストも充実して聴き応え充分。
鈴木淳史◎音楽評論家

リーナ・ヨンソン(ソプラノ)、ティルマン・リヒディ(テノール)、
マティアス・ヴィンクラー(バリトン)
ジョルディ・サヴァール(指揮)、ラ・カペラ・ナシオナル・デ・カタルーニャ、ル・コンセール・デ・ナシオン
(Alia Vox)AVSA9964 オープン価格
※2SACD Hybrid
聖俗入り乱れるオラトリオの特徴を鮮やかに引き出す
硬めの打撃音を伴った重々しいトゥッティ、そこから明るい木管が雄弁に飛び出す。サヴァールならではのサウンドが冒頭から耳を驚かせ、楽しませてくれる。〈春〉におけるバリトンのアリアでのファゴットの浮き出しなど、全曲を通じて透明感あるバランス設計。〈夏〉の嵐は、ヴェルディの《オテロ》冒頭を思わせる迫力だし、〈秋〉の狩りや酒宴での度を超えた賑々しさ。聖俗入り乱れるこのオラトリオの特徴を鮮やかに引き出すのだ。