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vol.82 ソプラノ 駒井ゆり子

ソプラノ 駒井ゆり子

フランス歌曲の第一線で活躍
フォーレ「優しき歌」などで演奏会
「少しでもファンを増やしたい」

「優しき歌」を3回歌う

 日本では数少ないフランス歌曲の歌い手として活動を続けている。6月にはフランスの作曲家、アンリ・ソーゲの没後30年記念のコンサート、7月には、フォーレがフランスの詩人ヴェルレーヌの詩集に作曲した歌曲集「優しき歌」を歌うコンサートを行う。
 「今年は『優しき歌』づいています。9月にも日本フォーレ協会の30周年記念演奏会などで2回歌います。7月のリサイタルはフォーレ自身の室内楽版です。ピアノ伴奏とは違う魅力があります。学生のとき聴いた際は違和感がありましたが、ただただCDをかけて体にしみこませました。フォーレは最初、ワーグナーの影響を受けましたが、その音楽的精神はフランスのエスプリが感じられる室内楽にあります、私もどちらかといえば、フォーレの小宇宙に共感します」

ソプラノ 駒井ゆり子

 ソーゲは「フランス歌曲の午後」と題されたコンサートで取り上げられる。フランスでも歌曲が少し知られているぐらいのマイナーな作曲家だという。
 「作風はロマンティックで、それほど新しい感じはしません。ミニマル・ミュージックのような短いパッセージの繰り返しで、ボードレールの詩に作曲しているのが面白いです」
 「猫Ⅰ」、「猫Ⅱ」という曲の詩は、ボードレールが猫を称えている。
 「ボードレールは、猫の声ほど完璧な楽器はない、と言っています。フランスの作曲家、文学者は猫好きが多いのです。私は犬派ですけど(笑い)」
 このコンサートのプログラムに入っているプーランクの歌曲集「動物詩集」は、アポリネールの詩に曲が付けられているが、歌われているのは、イナゴ、イルカ、ザリガニなど。また、ミヨーの「花のカタログ」は、花屋さんのヒヤシンスやクロッカスなど花のカタログに作曲したユニークさ。ことほどフランス歌曲は一筋縄ではいかない。シューベルトやシューマンなどドイツ・リートとはまったく異なる世界が広がっている。
 「フランスの芸術歌曲と呼べるのはフォーレ以降の新しい分野です。フランスの歌曲は文学や美術との関わりが大きいのです。作曲家が取り上げる詩は、難しいマラルメやシュールレアリズムの作品もあり、一般にはドイツ・リートよりハードルが高いのです。フランス語で歌曲のことは、メロディーと言いますが、『メロディーがないのにメロディー』というぐらい音楽も特殊です。歌曲も文学の方に重点が置かれている印象が強いのです。フランス語は言葉そのものがほとんど音楽といえます。一度入ったらはまるのですが」と話す。

ソプラノ 駒井ゆり子

裾野を広げる普及活動

 東京音楽大学大学院、二期会オペラ研修所を経て、パリ・エコール・ノルマル音楽院に留学、2009年に帰国して以来、フランス歌曲の裾野を広げる演奏活動をずっと続けている。
 昨年12月に行ったコンサート「フランス歌曲こんなにおもしろくていいかしら」は、ヴェルレーヌの同じ詩にさまざまな作曲家が作曲した作品を並べて歌い、作風の違いを聴いてもらった。「(ちまたに雨のふるごとく」はフォーレ、ドビュッシー、ディーリアス、「グリーン」はフォーレ、ドビュッシー、カプレの3人。プログラムには駒井の〝超対訳〟と、「グリーン」ならば「疾走感」「愛(エロス)」「早朝の風景」「フレッシュさ」などガイドとなるキーワードを載せている。
 コンサートで解説を行うのはもちろん、イラストを描き、スライドを作るなどして理解を促す。東京文化会館の依頼で、オペラコント「お料理ボンジュール!」まで書いてしまう。とにかく才人なのだ。
 「桐朋学園大学で『フランス語ディクション』という授業を持っています。声楽専攻の必修科目で、学生に1年かけてフランス歌曲を好きになってもらおう、という授業です。作曲家の周辺のフランスの芸術家同士の人間関係や風俗がすごく面白いので、学生にも興味を持ってもらえます」
 「優しき歌」のヴェルレーヌの人生はめちゃくちゃ。「優しき歌」は恋人マチルドに捧げられ、2人は後に結婚する。しかし、ヴェルレーヌは詩を送ってきたランボーの才能だけでなく、その人そのものに魅了され、マチルドを放って恋人に。2人はロンドン、ベルギーに逃避行する。この詩に作曲したフォーレは、歌手エンマ・バルダックとの恋人関係だったが、エンマはその後、ドビュッシー夫人になる。ずるずると人間関係がつながっていく。駒井は、こうした話が少しでも、フランス歌曲を好きになるきっかけになってくれたらいいという。
 さらにユリノキ合唱団を組織、指揮活動も行っている。昨年の恩師「芹沢文子先生メモリアル・コンサート」ではフォーレの「レクイエム」を指揮した。
 「アマチュアの方はドイツ音楽だからフランス音楽だから、といった垣根がありません。言語の壁を意識しないのです。『ドビュッシーのカンタータがね』などと話す人が増えてくれれば、すごくすてきなことだと思います。私が面白いと思ったものを少しでも理解してほしい、フランス音楽を普及させるために手を替え品を替えてやっています。専門家が少ないので研究する楽しみもあります。これまではフランス歌曲は正しく歌わなければ、とがんじがらめで、手を出しにくくなっていたと思います。間違っていてもいいのです。どんどん歌ってください。少しずつでもファンを増やしていきたい」

Yuriko Komai

東京音楽大学オペラコース卒業、同大学院修了。二期会オペラ研修所を優秀賞、奨励賞を得て修了。パリ・エコール・ノルマル音楽院にて最高課程“コンサーティスト”を声楽と室内楽の両部門で審査員満場一致、首席で修了。 全日本学生音楽コンクール第2位、東京音楽コンクール第2位、トゥールーズ国際フランス歌曲コンクールで最優秀ピアノ声楽デュオ賞。「カルメン」(フラスキータ、ミカエラ)、 「ヘンゼルとグレーテル」(ヘンゼル)、「バスティアンとバスティエンヌ」(バスティアン)、「子供と魔法」(子供)などで出演。CDはフランス近現代歌曲集「ポエジー」など。日本フォーレ協会会員。二期会会員。桐朋学園大学音楽学部非常勤講師。

ここで聴く

■コンサート

フランス歌曲の午後 Vol.4 アンリ・ソーゲをめぐって

6月23日(日)15:00 サロン・テッセラ
駒井ゆり子(ソプラノ)、根岸一郎(バリトン)
市川景之(ピアノ&ナヴィゲート)
■問い合わせ:kuronekopaul@gmail.com

優しき歌

7月28日(日)14:00 東京建物八重洲ホール
ラモー:歌劇「プラテー」より「狂気のアリア」
ラヴェル:弦楽四重奏曲
フォーレ:優しき歌(室内楽版・全曲)
駒井ゆり子(ソプラノ)、野間春美(ピアノ)
カルテット・フィオーリ
■問い合わせ:オフィスマキナ 電話03-3491-9061 info@office-makina.com

日本フォーレ協会第31回演奏会 創立30周年記念演奏会Ⅰ

9月30日(月)19:00 東京文化会館小ホール
フォーレ:ヴァイオリン・ソナタ第1番「優しき歌」より第2、3、5、8、9曲、他
ジェラール・プーレ(ヴァイオリン)
駒井ゆり子(ソプラノ)、須関裕子(ピアノ)
■前売:東京文化会館 電話03-5685-0650

■CD

「メロディー」ソプラノ 駒井ゆり子

「メロディー」
アーン:クロリスに
シューマン:献呈
ブラームス:5月の夜、他
(オフィスマキナ)OM-008