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vol.133 ウーヴェ・ハイルマン 指揮者

ウーヴェ・ハイルマン 指揮者
©藤本崇

宗教音楽の素晴らしさ伝えたい
日本で合唱団主宰
≪マタイ≫や≪メサイア≫指揮

 バッハのエヴァンゲリスト(福音史家)を200回は歌ったというドイツの名テノール、ウーヴェ・ハイルマン。歌手活動は引退したものの、今は日本に住み、東京、鹿児島で合唱団を主宰している。宗教音楽の指揮に精力的に取り組み、巨匠指揮者らとの共演で深めた知識や体験をメンバーに注ぎ込んでいる。

 東京・杉並公会堂の練習室。ハイルマンは、10月に演奏するヘンデルの≪メサイア≫を指導していた。「ハレルヤ! うれしい! もっと明るくね」。豊かな日本語に、時にやさしい英語を交えて伝える。「We can smile.You can feel!(笑えるよ。感じることもできる)。神さまは全部、ただで渡してくれた」。約80人のメンバーの歌唱がみるみる変わっていく。
 キリストの受難をうたう≪メサイア≫の曲「実に、私たちの悲しみを背負ってくださった」では、食べ物にたとえてクレッシェンドを要求した。「『キリストは(悲しみを背負うために十字架上で)傷を負った』。私たちの嘆きは、深いクレッシェンド。納豆、もち(の糸)が引っ張っているみたいな、ずうっと長いクレッシェンド」──。
 ハイルマンは1960年、ダルムシュタット生まれ。教会合唱団に8歳から属し、17歳で初めてバッハの受難曲のエヴァンゲリスト(福音史家)を歌った。20歳でモーツァルト≪魔笛≫のタミーノ役でオペラデビューし、85年にシュトゥットガルト国立歌劇場専属歌手に。モーツァルト歌いとして、ウィーン国立歌劇場やメトロポリタン歌劇場の出演を重ねた。

チェリビダッケと共演

 著名指揮者たちとの共演は数知れない。「チェリビダッケやジュリーニとモーツァルトの≪レクイエム≫、リリングと≪マタイ受難曲≫…。ベートーヴェンの≪ミサ・ソレムニス≫はコリン・デイヴィス指揮で歌っています。バイエルン放送交響楽団でした。欧州を周る公演の後、録音もしました。デイヴィスは言いましたよ。『20年前ならとても指揮をできなかった偉大な作品だ』と」
 ウィーン国立歌劇場に出演していたソプラノの中村智子と結婚。1996年に日本に拠点を移し、沖縄県立芸術大の教授に。2009年には中村の故郷、鹿児島に移り、鹿児島国際大音楽学科の教授として声楽を指導してきた。鹿児島の放送局社長だった元朝日新聞ボン支局長、古山(ふるやま)順一氏と知り合い、放送局の後押しで19年に合唱団を設立。東京でも昨年9月、「ハイルマン合唱団」を立ち上げ、今年4月には鹿児島と東京で相次ぎ、≪マタイ受難曲≫の公演を行った。

音楽の幸せを配りたい

 「私は、ベンツを買う18歳までは共産主義者でした」と笑うハイルマン。「今もキリスト教徒ではないと思う。だが、音楽の神、ミューズは信じます。オペラ歌手として若い時に有名になり、お金もいっぱいもらった。日本にいる今、『今度は幸福を人に返しなさい』とミューズに言われた気がしました。音楽で人を幸せにする。音楽の幸せを人に配りたい。私から伝えられるものはたくさんあります」
 9月には鹿児島でハイドン≪天地創造≫、10月にはミューザ川崎シンフォニーホールでヘンデル≪メサイア≫。来年4月には再び≪マタイ受難曲≫を演奏する。「音楽は教会で始まった。深い感情や愛を歌う宗教音楽は、素晴らしい音楽です。司祭にはどんな人種、民族の人もなれる。宗教音楽もそれと同じで普遍的です。日本人はもっと歌ったらよいと思います」

Uwe Heilmann

1960年ドイツ生まれ。デトモルト国立音楽大学にてヘルムート・クレッチマー教授に師事。20歳で モーツァルト作曲のオペラ≪魔笛≫タミーノ役でデビューし、85年よりシュトゥットガルト国立歌劇場専属歌手として 活躍しながら、27歳でウィーン国立歌劇場、28歳で米メトロポリタン歌劇場に出演を果たし、ドイツで「オペラ界の星」と評された。J.レヴァイン、D.バレンボイム、G.ショルティ、C.アバド、N.アーノンクール、C.ホグウッドや、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と共演した数多くの CDがある。エリザベート・シュヴァルツコップに 師事。オーストリアのシューベルティアーデ音楽祭に毎年出演し、リート歌手としての名声を不動のものに。代表的なものにJ.レヴァインのピアノ伴奏によるシューベルト≪美しき水車小屋の娘≫がある。ソプラノの中村智子との結婚を機に日本に移住。沖縄県立芸術大教授、鹿児島国際大教授を経て、宗教音楽を中心に指揮者として活動の幅を広げている。

ここで聴く

9月2日(土)18:30 宝山ホール(鹿児島市)

ハイドン ≪天地創造≫
ウーヴェ・ハイルマン指揮
ハイルマン合唱団鹿児島&オーケストラ
ドイツ・カールスルーエ独日協会合唱団「デア・フリューゲル」

10月28日(土)18:00  ミューザ川崎シンフォニーホール

ヘンデル ≪メサイア≫
ウーヴェ・ハイルマン指揮 ハイルマン合唱団(東京)・オーケストラ

※ハイルマン合唱団・オーケストラは、参加者を募集している。
申し込みや問い合わせは、合唱団のホームページhttps://heilmannclassics.com/ に案内がある。