おすすめアーティスト一覧

過去のアーティストをみる

おすすめアーティスト

vol.70 ピアノ アリス=紗良・オット

ピアノ アリス=紗良・オット

30歳を前に初めてフランスものを録音
9月の日本を皮切りにツアーを行う
「人間には光と闇の二面性があります」

 9枚目のアルバムのタイトルは「ナイトフォール」。夕暮れや夕方の意味。彼女は「大禍時おおまがとき(もしくは「逢魔おうまが時」)」という古い言葉を使って説明した。災難や魔物に逢うかもしれない黄昏たそがれ時をいう。
 「大禍時は、闇と光の世界がぶつかって混ざりあう1日の中の特別な時間です。フランスものを初めて録音するので、はじめ『パリ』というタイトルを考えました。思い入れのある曲を組み合わせているうちに、パリは違うと思ったのです」
 CDにはドビュッシーの「ベルガマスク組曲」、サティの「グノシエンヌ第1番」、「ジムノペディ第1番」、ラヴェルの「夜のガスパール」などを収録した。「ベルガマスク組曲」の第3曲「月の光」は周りがみな弾いているので嫌いで、一番近づきにくい曲だったと話す。
 「『月の光』は日本でもっとも愛されているドビュッシーの曲の1つでしょう。ロマンティックなイメージを持っている人が多いと思います。フランスの詩人ヴェルレーヌの詩にインスピレーションを受けて作曲されました。詩を読むと、幸せという仮面の下の素顔は正反対。人間の二面性や矛盾をうたっています。ラヴェルは小さいときから好きで、サティは今回好きになりました」
 今回のアルバムはドイツ・グラモフォンでデビューして10周年の記念になる。8月に30歳を迎えるが、その前にフランスものを録音できてよかった、と話す。

アリス=紗良・オット
タカギクラヴィア松濤サロンで行われた試聴会で
©Yoshifumi Shimizu

 「今20代の扉を閉めて、30代の扉の前に立っています。20代はあっという間でした。先を考えないで前へ前へと進んでいきました。これからどんな旅をしていくのか、目の前にある30代を楽しみにしています。30代も幸せでいたい。20歳のときにリストの『超絶技巧練習曲』を録音しておいてよかった。興味や好みも変わっていきますから」
 ヨーロッパ・ツアーに先駆け、このアルバムの作品にショパンの「バラード第1番」などを加えた日本ツアーが9月から始まる。
 「人間の中には『ナイトフォール』、光と闇の二面性があります。私は明るい性格と思いますが、だからこそこういった世界に引かれるのかもしれません。今度はステージの上で、お客様と一緒に音を作り出します。20回、30回と弾いた後は違った曲、演奏が変わっているかもしれません。それぞれ聴いてくださる方の解釈は違います。どこかで共感していただけたら」

Alice Sara Ott

1988年、ミュンヘン生まれ。父親がドイツ人で母親が日本人。ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学で学ぶ。ケーテン・バッハ・コンクール、欧州ピアノ指導者連盟コンクールなど数多くのコンクールで優勝。これまでにマゼール、P・ヤルヴィ、オラモ、チョン・ミョンフンら世界的な指揮者と共演。今シーズンでは、サンクトペテルブルク・フィル(テミルカーノフ指揮)などと共演、ハンブルク北ドイツ放送交響楽団(ウルバンスキ指揮)などのツアーに参加。2016/17シーズンでは、ドイツ・グラモフォンから8枚目となるCD「ワンダーランド」を発売。

ここで聴く

■CD

「ナイトフォール」
ピアノ:アリス=紗良・オット
ドビュッシー:夢想/ベルガマスク組曲、サティ:グノシエンヌ第1番/ジムノペディ第1番、
ラヴェル:夜のガスパール、他
(ユニバーサル)UCCG-1808  8月24日(金)発売

■コンサート

9月18日(火) 大阪フェスティバルホール
  20日(木) 熊本県立劇場
  22日(土) 東北大学百周年記念会館川内萩ホール
  23日(日) 広島国際会議場フェニックスホール
  24日(月) 日本特殊陶業市民会館フォレストホール
  27日(木) 東京オペラシティコンサートホール、他

■問い合わせ:ジャパン・アーツぴあ 電話 03-5774-3040